11.初春と始皇帝
<平成3年1月3日>
初春の日本列島は、車の大移動大洪水で渋滞が甚だしい。
それは数年前のことだった。産土神に初詣をすませてから、犬二匹と九官鳥の家族同伴を同伴して、熱海の家に向かった時のことだった。
平常は二時間余もあれば充分到着する距離だ。然しその日はなんと延々九時間もかかって了った。
犬達は朝食をすませたが、私は食事をしてなかった。
その日は晴天の正月日和で、車内の温度は二十数度にも上っていた。
そのうち私は空腹と喉の渇きで、手に重い特大のリンゴを瞬く間に、一個平らげてしまった。
渋滞は増々ひどくなり、のろのろと走っては止ってる時間の方が多かった。
やがて私はトイレの緊急事態に迫られたが、状況から全く無理だった。我慢に我慢を重ねた結果、止むを得ず、遂に犬の水入れのボールを借りて救われた。
ところがあっと驚くばかりに、なんとも言えないリンゴの芳香が車内に漂い始めたのである。
その時 これだっ! と思ったのは、秦の始皇帝であった。
侍女三千人の中から尤もすばらしい美女を選んで、桃ばかり食べさせたそうだ。
始皇帝はその尿を飲んで健康と精力増強の薬にしたと言う。
最近日本でも尿療法が盛になって、尿を飲む健康法が医学で大変有効であると実証されている。
その実践者が全国的に増加の一途にあると言う。
さすがは始皇帝と、おかしくも身近に感じる初春である。