8.ふしぎなトンボ

<平成5年7月18日>

 梅雨の晴れ間の七月の日曜日、朝から庭の緑の間をシオカラトンボがスイスイ飛んでいた。
 その日、月刊「川柳東京」の“庭の会”の方々が三十余名、私の童謡館に来られ、ピアニストの伴奏で童謡や唱歌を合唱した。
 そのあと展示物をご覧になったり、手巻蓄音機で七八回転の童謡レコードやオルゴールを聞かれた。
 お茶を召し上がったりして、二時間程して庭に出られた時「トンボ、トンボがいる」と言う声がした。私達も見送りがてら庭に出た。
 その時歓声がして、ご年配の男性が髙くあげた指に、シオカラトンボがピタリと止まっていた。
 「トンボ、トンボこの指とーまれ」。みんな童心にかえって無心の表情で、指を髙く立てていた。
 すると今度は年配の女性の指にピタリと止まった。
 みんな感動して拍手の音の波が続いた。
 「ああ幸運でした。いい川柳が書けますよ。八月号をお送りします」とおっしゃって帰られた。
 それにしても来館の人達に、なんとすてきなプレゼントをしてくれた珍しいトンボだろうと思った。
 ふと見ると小さな池の上に張り出した五葉松の枝に、クモが大きなテントをかけていた。
 あっタイヘン! わたしは一瞬ドキッとした。
 ―トンボさん気をつけて― 祈る心がふつふつと湧きあがった。