1.春蘭の花咲く頃

<平成4年4月26日>

 四月から五月にかけて、わが家の春蘭の株の葉かげに、アミガサタケが生える。蛇か亀の頭部かと錯覚する形の、網目模様のキノコである。
 珍しいので友人に見せようと、花ざかりの春蘭の葉をかき分けた時、友人がウワッと奇声をあげた。
 蛇が群をなして飛出してくると、一瞬思ったのだそうだ。全くそんな感じのする不思議なキノコである。
 ちなみに百科事典を見ると、シノウ菌類に属する食用キノコで、外国では上等の食菌類であると言う。
 アミガサタケが生える頃になると、黄昏の空にコウモリの敏捷な乱舞が見られる。このコウモリは小型のアブラコウモリである。今時コウモリなんてと言われて了いそうだが、けっこう数が多い。気がつかない丈なのだ。昔は木のウロとか神社仏閣の屋根裏が棲家だったらしいが、今この辺りでは多分、二子橋とか第三京浜その他の橋下ではないかと思う。
 コウモリは飛びながら蚊や虫を捕食するので、むかし「蚊食い鳥」と言っていた老人がいたのを思い出す。
 いま乱舞しているコウモリは、私が子供の頃にいたコウモリの子孫と思うと、同じふるさとに共存する友達として、いとおしさを感じる。
 多摩川とその周辺の緑が、コウモリや鳥や昆虫たちの、生命の源を保っているのだ。                  この美しい地球と緑と水を、本気で次の世代にバトンタッチしたいものと思う。