14.花のいのち
<平成3年8月8日>
花火の季節がやってくると、詩人の高田敏子さんを思い出す。高田さんは平成元年五月に七十三才で亡くなられた。春風のようにやさしい声と、表情が豊かな美しい方だった。
あるパーティーで久しぶりに、高田敏子、高木東六、江間章子、私の四人で話がはずんだ。その時高田さんが、「来年のこと言うと鬼が笑うけど、両国の花火を四人で観ましょうよ。隅田川沿いのホテルの屋上のお席を私がとるわ。私花火が大好きなの。ね。約束げんまんよ」とおっしゃって無邪気に笑った。
高田さんとは、ある年刊詩集の編集委員として、十年余りご一緒だったので、いろいろお話を伺った。
高田さんは詩の同人誌「野火」を主宰していらしたので、二子玉川の花火の時、河畔で旅館を営んでいた叔母さんの家で、同人達と研究会を兼ねて、花火の集いをしたのがなつかしいとおっしゃっていた。
高田さんは美しい方だったので、晩年の容貌を大変気にされていた。「髪の毛もこんなになって了ったのよ」なんておっしゃっていた。
でも高齢でこんなに女らしく美しい雰囲気を持っている人がいるだろうかと思っていた。
高田さんは、花のいのちの淋しさを詩人の繊細(センサイ)さでいたく感じていらっしゃった。
花火の約束を破って永の旅立ちをした高田さん。ギリシャの旅で買われた紫のマントが、よく似合った高田さん。私も高田さんのように、移り行く花のいのちを美しく生きたいと思う。