16.師走随想

<平成3年12月12日>

 過日朝日新聞社主催の「花 京 大和」をテーマにした「岡(オカ) 信孝(ノブタカ)展」を、師走の銀座に見に行った。
 四季の推移を、繊細なタッチで描いた世界に、私はすっかり魅了された。
 かすかな風のささやき、花の匂い、桂川の水の音、夕映えの妙等々。
 私は美しくすがすがしい絵の中の世界を歩いていた。
 美の匠(タクミ)がかもし出す、柔らかくやさしい詩情。
 恵まれた天性とその奥にかくされた、鍛錬の積重ねの結晶と言うのだろうか。
 厳しい目と歳月を通して、磨きに磨いた美の極(きわ)みに感動した。
 そしてふとわが身をふりかえった。
 川が一途海をめざして流れるように、私も詩と童謡という私の海に向かって、一途歩んできた心算なのだが―。
 もう今年も余すところ僅か、時の流れの速さを痛感する季節だ。
 然し今の世の中、時間の浪費や体力の消耗が多過ぎる。過労死は年々増加の傾向にあるし、みんな誰もが忙し過ぎるのだ。
 私は毎年一月は休養と充電の月と決めている。多忙過ぎた前年の疲れをとり、新しい年の計画をたてる。
 今夏開館した童謡記念館も、一月だけ休館の予定である。
 そして幾つかの詩を書く。読みたかった本を読む。降り積もった枯れ葉の始末をする。思いっきり動物家族の面倒をみる。
 静かに門を閉ざしたまま、孤島のみの虫になることが、いまの世の中最高の幸せではないかと思う。