1-6 女豹 ~花衣
パリ・モードの街
フォーブール・サン・トノレ通りの
ブティックの Soldes で
豹の模様の スーツを買う
わたしは 900フランで
女豹に変身して サングラスをかけ
パリの町を 得意になって歩く
女豹は
カンナの花の 血の色が好き
爪を真紅に 染めて
心はおどる
今宵は
ツールダルジャン
マキシムか
はたまた
ツールエッフェル
プルニエか
楽士の奏でる ヴァイオリン
薔薇いろの 華やかなパリの夜を
心にえがいて
けれど その夜
誘われて 出かけたさきは
美しい照明に 夢幻の姿で浮かぶ
ノートルダムを 前にした
左岸の 路地裏
しかも地下牢獄あとの
いかにも不気味な
シャンソニエ
歴史の蔭に泣く
幾多の怨霊の声が
湿った暗い 岩かげの中から
重い合唱となって 聞こえてくる
そこで女豹は ひとり
セーヌの夜風に 吹かれて
タクシーで ホテルに向かう
ひとりぼっちの ホテルの部屋は
野性の女豹の 憩いの巣
あくびをしても 歌っても
一声吠えても うなっても
裸になっても 踊っても
誰に 遠慮はいらない
女豹は 孤独が好き
女豹は
豹のスーツを 脱ぎすてて
長い髪を ほどいて
ベッドの巣に もぐり込む
けれど 眠れない
充たされない 野性の叫びが
目を冴えさせて
女豹は
いつものように 跳ね起きて
一篇の詩を 書く
淋しい時 悲しい時
愛する時 怒りの時
純粋な 野性の叫びを
詩の世界に 求めて
女豹は
パリを 愛した
けれど 淋しい
午前二時
パリの 夜は更けて
【朗読】
女豹
朗読:大森 寿枝
【メモ】