00 小黒恵子さんのこと
小林純一
もう七年ほど前になりますが、「シツレイシマス」という奇抜な書名の童話集が出版され、たいへんな反響を呼び起こしたことがありました。私なども目を見張った一人です。題名も風変りなら、昆虫など身近な小動物や植物などの生態を、変った角度から描いた、ユニークで機智に富む印象的な作品が、目白押しに並んでいたからです。
その著者が、当時はまだ無名の新人といっていい小黒恵子さんだったのです。聞けば、小黒さんは都会でありながら宏大な自然に恵まれた環境に住み、童謡をサトウハチローに学んだ上に、前衛的な児童文学の同人誌「まつぼっくり」で立石巌・高木あきこ氏たちの俊英と練磨しあっていた一員とか。そうした作品を生み出す素地のあったことを知り、なるほどと合点したことでした。
「シツレイシマス」は、たちまち小黒さんをこの世界のホープ的存在に押しあげ、ジャーナリズムでの目覚しい活動を示すようになりました。この曲集は、その一端を示すものですが、「あとがき」による小黒さんの記録を見ても、その活動ぶりがうかがえましょう。また「エメラルドの約束」「ユトリロの絵のなかで」などの詩集を立て続けに出版、その分野の幅広いことも示してくれました。
この小黒さんの詩による曲集には、その「シツレイシマス」の中の作品も、かなり収められています。作曲を意識しての改変のためか、かなり初出の作品と印象の異なるものもありますが、小黒さんの詩の歩みと、その独自性をうかがうに足る一冊となりました。加えて、当代の「子どもの歌」の主流をなす作曲陣の豪華な顔ぶれが、大きな価値と魅力を増幅し、昭和五十二年度の所産として意義深い足跡を示すことになりました。同じ「日本童謡協会」に席を連ねる一人として祝意と賛辞を呈する次第です。
小黒さん、よかったですね。
(昭和五十二年 秋)