0 歌曲集《花ものがたり》について

 4年前、宇佐美瑠璃さんのリサイタルのために私が新作を2つ書くことになり、そのために頂いた詩のひとつが《馬鈴しょの花》である。小黒恵子さんとははじめてのお仕事だったが、ずっと童謡を書いてこられた方らしく、女性的でやさしさに満ちた詩にほっとした覚えがある。問題提起はあっても客観性に遠い現代詩が多いなかで、この国の伝統的な花鳥風月を詠む詩、クラシックの訓練を受けた歌手たちの歌う曲に適した穏やかなポエムも欲しいのだ。
 ほのかに社会を写しつつ、《花ものがたり》といったタイトルでご自分の人生を詠むまとまった詩をお書きになったら、とそのおり気楽な提案をしたのだが、1年ならずして新たな12の詩が送られてきた。ぜひ歌曲にして上演したいといわれる。極限的な多忙のなかにあった私は、完成をずっと先に延ばさせて頂いた。その間に神戸の震災への思いを加えたり、ぜひ沖縄の花と民謡が欲しかった私の願いが満たされて《鳳仙花(ティンサグの花)》が生きることになった。
 この6月、ピアノ伴奏による《花ものがたり》14曲が完成、出版作業と並行して、10月16日津田ホールにおける初演コンサート「女声と管弦による抒情舞台《花ものがたり》」の準備を進めている。各歌に、ピアノに加えて7人の管弦の伴奏がつき、それらのアンサンブルによる器楽プロムナードが、歌イコール花々を愛でたあと思い巡らせて歩む音の道となるように図っている。
                          1996年9月11日
                             三木 稔