00 あとがき 虫と私
私は夏が大好きです。
いろんな虫だちに逢えるからです。
でも歓迎できないのは、やぶっ蚊ドラキュラ。夕方になると、どこからともなく血を求めてやってきます。
そんな時、屋外に繋いである二匹の愛犬が刺されては大変と、月桂樹の落葉をモクモクといぶして、ドラキュラを退治します。
黄昏のなかに白い煙が溶けて流れて、月桂樹の芳香が一面に漂い、何とも言えない情緒があります。ドラキュラは好ましくありませんが、おかげで月桂樹のあの高貴な香りとなじみになりました。
夏の花形は、何と言ってもセミ。
短かい生命を燃焼させるかのように一日中合唱してもまだ足りず、夜になっても夏と言う舞台で歌いまくる売れっ子の歌手たち。
昔は夜、セミは鳴きませんでしたが、今は街燈やいろんな灯りが照らしているので、生活環境にあわせているのでしょうか。
けれどもセミも歌ってばかりはいられません。セミの命を狙っているハンター「蝉食いキャット」がいるのです。
わが愛猫のアルバイトが盛んになるのも、この頃です。一日に五匹も六匹も捕えては、じゃれて遊んで、羽だけ残して食べてから舌なめずりをして、美味しかったあとの幸福にひたっているようです。
昨夏、梡梠竹の植木鉢からセミが出てきて、立派に変身して飛立ったのを目のあたり見てびっくりしました。小さな鉢の土の中で何年も生き抜いた生命力のたくましさに脱帽しました。
次に身近なのはアリ。
いつの間に見つけるのか、甘いお菓子の残りや果実に集ってくるやっかい者たち。時には、どこからどこへ続くのか延々と長い大名行列ならぬアリの行列。
幼い頃、叱られたとき、よく庭の隅にしゃがんで、アリの行列を眺めたものでした。
大人になっても今でも、こうしていると何故かとても慰められるのです。
次に「コンバンハァ」と、どこからともなく黒いマントを着て現れるのがゴキブリ。食べ物が全く無い書斎の机の上にまで、愛想よく出てくる四季を通しての友達。
また、夏の夜に灯りをめがけて飛んできて、畳の上に遠慮もなくひっくり返るのは、ゲンゴロウ。
毛むくじゃらの足を、バタバタやるさまは、かっこうの悪いねぼけた山賊。起き上るのを手伝ってやっても、当り前だと言う態度で、いばっている、池や小川や田んぼから飛んでくる田子作紳士。
まだまだ私の親しい虫のともだちは、たくさんいます。
虫はみんな友達。
どんなに小さな虫でも、我々人間と共にこの地球に平等に生命を与えられて生きて住んでる愛すべき仲間たちです。
童謡集「シツレイシマス」に続いて再び谷内六郎先生の装幀で飾って戴けまして、幸せと悦びで感謝でいっぱいで御座います。ありがとうございました。
また現幻社の柿沼淳氏にも「シツレイシマス」に続いて再びお世話になりまして、感謝に堪えない次第です。
昭和四十九年 リンゴの花の咲く季節に
小黒 恵子