8.蜘蛛の天気予報
<平成2年6月21日>
「ビルの窓 蜘蛛かと見違(まが)う ガラスふき」
いつだったか交通渋滞の都心を運転していた時、ふと高層ビルに目を移すと、蜘蛛‼と錯覚したのは、なんと小さなゴンドラに乗ったガラス掃除(ふき)人であった。
蜘蛛と言えば、形や色や大きさ巣等その種類は、余りにも多岐であるが、興味があるのは、黒と黄色のおしゃれな縞の海賊のTシャツ模様の、ジョローグモとヘイタイグモである。
彼等は美しいだけでなく巣のサインが実に見事だ。
蜘蛛の巣は透明なのに、その巣が出来上がると最後に、銀白色の目立つ太い糸で決ってサインを入れる。
それは恰もタレントの判読しにくいサインとそっくりだが、「蜘蛛語」でそれぞれの制作者の名前と表札を兼ねているのだろう。
巣が出来上ってサインする時の気分は、恰も画家や作家が作品にサインする時と同じと思う。
蜘蛛は天気に対しても、非常に敏感だ。雨と判断すれば決して巣をかけない。
時間と神経と労力をかけて生きる為の作業を、決して無駄にしないのだ。
私の亡母が蜘蛛の巣で天気を判断していた。蜘蛛が巣をかけないと雨。かけると晴。その天気予報は全く的中していた。母がいま生きていれば九十才。母は祖母から教わったと言う。
昔テレビもラジオもない時代に、蜘蛛の天気予報を大切な生活の知恵としていたのだ。たまに天気予報を聞きそびれた時、私は庭の五葉松の蜘蛛の巣をみて天気を判断している。