00 あとがき
この小さな童話集『シツレイシマス』は「木曜手帖」「まつぼっくり」「随筆サンケイ」等に発表されたものと、未発表のものとを併せた四十七篇、主として土の匂いのするものを集めてみました。
そんな動物でも昆虫でも、あるいは植物でも、この地上に私たち人間と共に生きている仲間たちです。
さいわい、私の生まれてこのかた住んでる家は、たいへん自然に恵まれております。
毎朝、雀に起こされ、四季おりおり種類の異る珍らしい鳥が見られます。夜、フクロウの鳴くこともあれば夏や秋の夕方など、小さなコウモリが大きな欅のウロから飛んで出たりします。ヘビは初夏と秋が特に多く、トカゲもヤモリもたくさんいます。雨上がりの朝、モグラの山がポコポコ盛り上がった時など、二匹の犬が競争で穴掘りをしています。ウグイスが鳴く頃は、九官鳥が「ホー ホケキョ」の鳴き合わせをして得意になっています。夏は小蝉、油蝉、ミンミン蝉、オーシンツク、ヒグラシの順で七月から九月にかけて賑やかです。そのほか、カミキリムシ、クワガタ、カブトムシ、玉虫、キリギリス、カマキリなど毎夏、私の幼い頃からの友達です。
ところが近年、それらの数が減ってきました。今夏は特に欅の葉がオキシダントの影響を受けて、秋を待たずに殆ど散ってしまいました。二、三百年もの長い間、生きてきた欅もあと何年かで残らず枯れて巨大な姿を消す日も来ることでしょう。そんな時、もちろん鳥も来なくなるし、昆虫や爬虫類も欅と共に消えることでしょう。
四角に切れた空、四角い建物、連らなる車、こんな中で育つ現代の子供たちの、自然と動物と昆虫たちとの断絶を想う時、こんな土の匂いのする詩があっても良いのではないかと思うのです。
なお、この童謡集を、長い間の念願であった谷内六郎先生の装幀で飾って戴けまして、夢が実現した悦びでいっぱいでございます。
昭和四十五年初秋
小黒恵子