15.卒寿のイメージ(★)

<平成6年10月2日掲載文>※原文無し

 長寿を祝う行事は、室町時代から今日に至るまで受け継がれているという。
 家族や後輩がそれを祝うのは、温かく美しいことだ。人生の幾多の嵐(あらし)を通り抜けて、健康で長生きしている人はすばらしい。
 今夏七月に横浜で、作曲家の高木東六先生の「卒寿記念コンサート」が盛大に催された。また六月には合唱団とともに、オーストラリアのオペラハウスで、「人生とハーモニー」の公演をされた。七月末には私の童謡記念館で、ピアノとトークをお願いした。その妙(たえ)なる音いろは感動的だった。
 九十歳にして今なお年間を通し大変たくさんの仕事をされている。「卒寿」で思ったのは、“卒”の字のイメージが芳しくないということだ。最近では九十歳の祝いにふさわしく“きゅうじゅう”をもじって「久寿」と言っているところもあるという。
 また、“鳩寿”と書いて“はとじゅ”と言ったのは、漫画家の故田河水泡氏が「卒寿」を迎えた時に考えたそうだ。今夏六月に九十歳を迎えた田河夫人の劇作家高見沢潤子さんが、“鳩寿”の祝いを都内のホテルで盛大に開かれたそうだ。広い分野で九十歳を迎えてなお活躍している方々に、心より脱帽のほかはない。
 これを考えても“卒”ではなく“久”か“鳩”がいい。私は平和を象徴する“鳩”を選びたい。
 九十歳までは大分間があるが、歳月の列車は速い。いずれ私も健康な社会人として“鳩寿”を迎えることができれば幸いと思っている。