4.大きな樹

<平成元年11月15日>

 大地にどっかりとふんばって、空と握手をしている木が私は大好きだ。大きな木には総て抱擁してくれる母のやさしさと、深い安らぎがある。
 木の生命力はすばらしい。
 屋久島の縄文杉や大王杉など、二千年も三千年も今なを生き続けている。
 世界で最も大きく最も長寿のスギ科のセコイヤは、なんと樹齢四千年から五千年にも及ぶものがあると言う。
 アメリカ西部に在るヨセミテ国立公園には、自動車の通る大きな穴のある木もあるそうだ。
 童謡「星の王子さま」が住んでいた星は小さいので、大きく育つ芽が出ると、すぐに摘みとらねば星が割れてしまうと言うあのバオバブも、二千年も三千年も今に生き続けている。
 ケニヤの首都ナイロビからモンバサの海に向かって、車で走る途中、標高が低く暑くなるにつれて、バオバブが私達旅人を恰も歓迎するかのように、ビヤダルのようなお腹を突き出して、たくましい腕のような枝をいっぱいに拡げていた。
 それ等の巨木に比べたら我が家の欅(けやき)は及ばないが、三百年余も生きている木たちだ。
 春夏秋冬の自然の妙(たえ)と美しさ、生命の威厳と尊さを教えてくれる教師であり友達だ。
 然し都市化の波と近隣の人の強い要望に應じ、道路側の大きな枝を切落す結果となって了った。大きな木と人との共存の難しさを痛く感じているこの頃である。
 九月末の朝日新聞に「室内の汚染 植物でクリーン」という見出しで、米航空宇宙局NASAが二年余の実験の結果、「室内汚染は空気清浄器より植物の方が遥かに有効である事を確認した」と言う記事があった。わが家の欅も排気ガス等の浄化に大いに役立っていると言う誇りが胸を熱くした。
 緑の大切さを言葉だけでなく真に理解して欲しいと思う。
 この美しい地球は、人間も動物も植物も生あるもの総てが共存しなければならない、みんなの地球なのだから。

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