11.犬と牡丹
<平成6年1月16日>
日本画家の小倉遊亀さんの牡丹の絵が好きだ。そよ風にうすい花弁がひらりとかすかにゆれる気がする。
観る人の心を和ませ豊かにしてくれる。
今なお現役で描いている遊亀さんは明治二八年生れ、数えで百歳だそうだ。
遊亀さんの牡丹と言うと、十年前に八五歳で亡くなった母を思い出す。
いま十一歳になるシーズー犬が来た日、獣医さんが篭から出したとたん母が「あれっこの子、小倉遊亀さんの牡丹の絵にそっくりね。」と言った。
一瞬みんなびっくりしたが、まだ伸びきらない子犬の頭部の柔らかい毛が開いたさまは、なるほど牡丹の花にそっくりだった。
それから暫時「牡丹ちゃん」と言っていたが、毛も伸びフクロウのようなまんまるい目玉が目立つようになり、いつのまにか「ダンちゃん」になってしまった。
今年は国際家族年、家族ってすばらしい。泪がでるほど美しい。年とったダンをはじめ動物達と私の五人家族は、愛と信頼で支えあっている。
この初春早々病気で寝込んで了った私を、なめて治す動物の習性を発揮して、食事も求めず看護してくれた。
この家族達に心配や悲しみを与えてはならないと強く思った。
こんな時私は家族を抱きしめて、暖かい涙と共にたくましく生きる力が湧いてくる。牡丹のように暖かく美しい幸せを築いていこうと、国際家族年の初春に改めて思った。